自然溢れる大学のキャンパスをいつものように歩く。心地よい風が頬を撫でていく。
ベンチに腰掛け、戯れ合う他のカップルを眺める。頭の上の樹々を見上げると、
雲ひとつない綺麗な空がやれやれという感じでこちらを覗き込んでいる。
そこから過ぎ去ったはずの時間が差し出される…黄昏が舞い降りるように。
遠くに見える山々や水源地を眺めながら、彼女は言った。
「私さ、大学を卒業したら先生になりたいと思ってるの」
『どうして?』
「理由なんかないよ、ただなりたいだけ」
『そっか、それだけだと生徒が少し迷惑かもしれんね』
「そうかもね 笑 まえきんは何になりたい?」
『ん~、まだわかんないな』
「IT職でSE(システムエンジニア)がいいんじゃない?バイトで家庭教師やってるし、
お客さんに色々ヒアリングしたりシステムのことを噛み砕いて説明する時とか
役に立ちそうじゃん。なれたらカッコいいよ!」
『プログラムを組むのは苦手だけど、要件定義とかシステム設計とか上流工程のSEに
なれるなら、確かにやってみたいな!でも、希望通りじゃなくてもし開発専門の部署に
配属されたりしたら俺にとっては地獄だしやっぱ却下で 笑』
「あ、せっかく薦めたんだから進路の選択肢には入れといてよ!笑」
数年後、彼女は大学の卒業を機に地元に戻り、希望していた学校の先生になった。
今は結婚して、引退したと風の便りで知った。
僕は、今まで彼女にたった二度だけ嘘をついた。
一つは大学の卒業を機に彼女と一緒にいられなくなったこと。
もう一つは…SEとして、僕は今日も社会の荒波に立ち向かう。
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<あとがき>
本文章は、私が大学受験の浪人生だった当時に大変お世話になった
代々木ゼミナール 現代文講師 青木 邦容先生に敬意を表し、当時の
講師紹介文のオマージュ(hommage)として掲載させて頂きましたm(_ _)m
大学に進学した後はもちろん、社会人になった今でも尊敬しています✨
代々木ゼミナール(予備校) | 講師紹介 (yozemi.ac.jp)
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